ふくだももこ監督『おいしい家族』2019年

ふくだももこ監督のやさしい世界観。(悲しいかな)現在のマジョリティの感覚が、マイノリティに反転するという仕掛けの妙。これ、意識はそのままにマイノリティになっちゃったというのとは大違いで、マイノリティに対する偏見がない人たちがマジョリティになり(現実もこうあってほしいのだが...)、自分だけそうした違和感をもってしまうという設定。

 

主人公・橙花は、頭では多様性が大事で尊重すべきと分かっていても、本音では、感情ではそれを認められない。弟・翠に「外国人と結婚したからって寛容ぶらないでよ」と当たるシーンは憎い。これは裏返せば、私だって気持ちがついていけば認めたいけど「普通」そんなの無理だろ、って叫んでいるようにも聞こえる。無論、八つ当たり、というか現在の偏見が当たり前の世界で暮らしているからそう感じてしまうのだろう。

あるいは後のシーンでは、父・青治に、お母さんもいなくなってお父さんまでいなくなったら...という話をしているので、自分から何かを奪われるという漠然とした不安が排他的な感情につながっているのかもしれない。実際には、寛容と何かを奪われる危険の間には全くつながりがない。だから橙花も父をありのまま受け入れることができたのだろう。

 

全体としては映像が綺麗で、最初はポップな演出で、ビビットな画から始まり、明るいドゥビドゥバの音楽。冷え切った夫婦のディナーも鮮やかな赤と白の色彩で鮮やかに描く。夫婦の沈黙の間も明るい音楽は続いている。それから映像では風景も素敵で、橙花がひとり飲んだくれて歩く暗闇の道と、父と二人での同じ帰り道、そして東京から島へ向かう際の海、葬式で疎外感を味わった後の赤みがかる月が浮かぶ海に、父に母の面影をみた後の夜の海、最後に青治と和生の結婚式の晴れやかな澄んだ青い海。実家ついてすぐの台所を右から左にカメラが撮ったのも綺麗だった。あと好きなのは葬式の準備で、和生が座布団を並べていくとこ。田舎感もあっていいのよ。

 

好きなシーンがいくつもあって、実のところ好みでいえば、ドラマ感の強い演出が苦手なのでコミカル強めでミュージカル風なシークエンスもある本作はドンズバ好みじゃないのだが、細部がしっかりと作りこまれていて説得力があり、かつ強い台詞があることで、そんな自分でも引き込まれ好きになるシーンがあった。

 

先の穂香と夫のディナーシーンでは、別居中の3周年の結婚記念日に、その明々後日の母の3回忌ときて、「お父さんによろしくね」からの「別居中ですけどよろしくって?笑」の鉄板スベりジョーク(ナイス)。両親は何も言わずに分かり合えてうまくいってたのに、からの青治と和生の阿吽の呼吸。「アレとって」「はい」「アレどうした?」「あー喪服?あそこ」、笑った。対比が上手い。分かりやすいシーンだけど、自販機のところも、橙花は相手が自分と違うということ自体におそらく居心地の悪さを感じていたのではないかと思うのだが、最後には微糖のコーヒーを買って渡す。3年で好みを知らないというのも問題だし、ささやかに変化を見せた橙花だけれど、微糖のコーヒーをもらった夫がフハハと笑ったのは、砂糖のあるなしじゃなくてコーヒー自体が駄目だったからじゃないかと思う(笑)。それでも変わろうとしている橙花が微笑ましくて。

 

福島という情報の入れ方もいいなと思った。あとサムジャナ(イシャーニ)の誕生日。横田由美子さんという方が「結婚式のデモクラシー」といって男尊女卑・家父長制ではない結婚式の行い方を提唱していた。平等にできることはできるだけした上で、席順やスピーチの順番、立ち位置などその場その場では平等にはできないことは、夫婦で替わるがわる、かわりばんこで行うというもの(「代わるがわるの輪番制」)。ある社会、家族のなかに入るとき言語は一つである方が便利だし、食事の様式も基本的に決まっている方が便利だ。そのとき誰かは、別の誰かたちに合わせているかもしれない。できるだけ多文化共生をしようと思ったら実際、どこかで代わりばんこで相手に合わせることが必要になるんじゃないかと思った。その比率は偏らざるをえないかもしれないけれど、サムジャナの誕生日のもてなし方には平等と多文化共生の理念が生きているような気がした。

 

瀧が「自分を恥ずかしいなんて思いたくない」と心情を吐露する場面、演技がよかった。役者の方々がみんなよかった。出てきた瞬間、この人好きだーってなる浜野謙太。教会の綺麗なお祈りシーンで出てきた裸足のモトーラ世理奈。橙花が実家で振り向くと下から舐めるようなショットで登場する板尾創路。「母さんになろうと思う」の台詞の言い方がめっちゃいい。瀧(三河悠冴)と父親の和解の場面も二人の演技よかったなあ。

 

翠(笠松将)が橙花に当たられたとき、非難しかけてやめたところもよかった。ふくだ監督の映画を観ていると、なぜかハロプロの曲が浮かんでくるのだが、このときは「バカなふりばっかりしてるヤツが いいヤツだったりするんだ」(アンジュルム/七転び八起き)が浮かんだ。ハロプロ推しからすると、ダリアの「アイドルだからって白くなくていいやって」と日傘を差さなくなったのも熱かった。その通りだよ。教会で和生に橙花が、なぜ結婚するのか訊ねたとき、和生が「結婚て別に女とか男とか恋とかセックスだけじゃなくて、愛さえあればオッケーだと思う」と答えたのは最高で、「結局はラブでしょ」(アンジュルム/46億年LOVE)って思ったのでした。橙花が青治に化粧をするシーンはとても綺麗だったなあ。