高坂希太郎監督『若おかみは小学生!』2018年
講談社の青い鳥文庫から全20巻で出ている、令丈ヒロ子『若おかみは小学生!』(2003-13年)が原作。漫画も全7巻で出ていて、今年の春夏でアニメ化されたところ。
原作読んでなかったのも、アニメ見逃してたのも悔しくなった...めっちゃええの
ワンカット、ワンシーンが短いのか、テンポ速く物語が進んでいく。主人公おっこの元気いっぱいさも、展開を推し進めていく。
おっこは、交通事故で両親をすぐそばで亡くす。それからおばあちゃんの旅館に引き取られて、半ばなりゆきで気の進まないなか若女将として旅館で働くことになる。
天真爛漫さから、あるいは両親の死の現実感のなさ(おっこは両親を生きてるように感じている)から、普通かそれ以上に元気な子供として、さらには若おかみとして過ごし、また成長していく。
でも車で出掛けるときに、事故のトラウマにおそわれる。このあたりの展開、緩急が凄い。一気に観ている側もトラウマに引きずり込まれる。が、ここでは事もなく乗りこえる。観客も一安心とほっとし、爽快感の溢れるハイウェイから、ショッピングモールでのお買い物シーンでは、すごく楽しげで解放感がある。
序盤に、同じころ母親を亡くした、あかねくんと出会うが、このときおっこは死を乗り越えてがんばっている姿を見せた。その後もまっすぐながんばりでお客さんのために尽くし、問題を解決していく。
ところが終盤のシーン、ケガしたお客さんが両親の事故の相手だったことを知ったとき、おっこの傷の深さに気づかされることになった。当たり前だ、おっこはどこにでもいる小学生の女の子なんだ。すっかりおっこの元気な姿に安心しきっていた。
本当に両親がいなくなってしまった。喪失感がいきなり形をもって、ズンと心に沈み落ちてくる。打ち震えるような動揺も、それまでの主人公と一貫して演じる、小林星蘭の演技は見事だった。
というかこの山場、小学生のおっこが、両親の事故の相手と出会い、かかわっていくこの困難すぎる場面、そしてそこからラストまで、素晴らしいとしか言えない。展開にこうも乗せられるかってほど乗せられる。
物語も綺麗に回収され、エンディングもまたいい。
トラウマの深さの表現てかなり難しいと思うんだけど(計量のしようがない)、ここまで観客に痛みを感じさせられるアニメーションがあるとは。しかも全く「リアル」とは思えない画だと最初思ったけど、これがなんだかすごい生きてる。
この映画のよさを語り尽くせない表現力のなさがもどかしいが、もうあとは観てほしい。
アニメーションの技術的なところでも、非常に新しい画面ということが誰の目にも分かると思うし(ジブリと監督は近いけれどジブリのタッチでは全くない)、ここらへん別に詳しいわけでもないけど、表現の形式が表現内容をしばっていないことも魅力に感じた。
あとは蛇足かもしれないけど、随所でのリベラルな思想も感じたし、田舎や伝統みたいなものを新しい時代に合わせて提示している点も好感だった。
あかねくん親子はパソコンにタブレットを使っていたり、おっこの同級生の真月の旅館は豪華でイルミネーションなんかしてる(でも自然と調和させたかたちで)けど、田舎の距離感や知や技術の継承のなかでは、それほどそういったものが目立ってこないことも自然だった。
と、散漫に書き連ねただけになってしまったけど、ほんとうにいい作品だった。アニメも原作もチェックしたいし、また観かえしたい。
<追記>
宇多丸最新映画評(1週間経ったら聞けなくなるかもしれないけど、開始30分18:30~)がめっちゃよかった、そしてそこに言われている通り、僕も読んだけどパンフレットの監督インタビューがもう完璧な説明だったね
https://pbs.twimg.com/card_img/1057076063346450432/TaEKL7sD?format=jpg&name=600x314
パンフレットでは、3人のお客がおっこの現在・未来・過去のイメージに重ねられていることや、映画では説明されない神楽の裏設定(というより神楽に込められた意味、つまり神楽自体の物語)が本筋のストーリーとも重ねられていたこととか、ロケ地なんかの制作ノート的なものも見れていい。
モデルやロケ地が載ってるから聖地巡礼したくなるねコレは、マストでしょ。