太宰治『人間失格』初出1948年

本当におもしろい小説。自分の経験に、これほど酒、金、女によって身を滅ぼしたことはないが、この自意識の強さに共感してしまう。

 

徹底して他者からどう見られるかで自己を形成し、またトラウマからか、人間を信じられず当たり障りのないよう逃げるようにして生きる。

 

世間が個人でしかないと思ってから、自分の意志で行動することができるようになるが、今度は「他者」がいない。あるいは倫理がない。だからヨシ子との生活も崩壊した。

 

そしてついには脳病院に送られ、狂人、癈人という社会からの烙印を甘受してしまう。

 

「人間、失格。」

 

世間という大文字の他者はなくとも、目の前に他者はあり、そこでの倫理を失ってはならない。

 

抑圧する者として〈父〉が死んだとき、具体的な存在としての父に向き合っていなかったことに気づいたのではないか。呆然としたのは、目の前の他者への倫理の欠如をそのとき自覚したからではなかったか。