アリス・ウー監督『ハーフ・オブ・イット』2020年

さすがのNetflixオリジナル。
音楽もいいし、オシャレ。哲学・思想、フェミニズムの引用が出てきて、田舎に埋もれた才能が他者と交流していき化学反応が起こる。これはNetflix作品のトレンドな気がするし、どれもこれらの要素で高品質に仕上げてるの凄い。とはいえ、何か似てるなあ感があって序盤は「またか」とか思ってると引き込まれていく。地力があるんだろう。
物語・構成と印象的な台詞がエッセンスになっている。
ラブレターの代筆というビジネス(等価交換)に始まり、複雑な心理を経験しつつ交流し、「愛とは何か」と自問させられる。

以下は映画を観て思ったこと。
代筆を頼むアメフト部のポールがほんとにいい役所で、理性的なだけでない抑えようのない気持ちとしての愛や身体的な本能的なレベルからの愛の重要性を教えてくれる。
また愛について、タイトルの言葉が冒頭に出てくる。プラトン『饗宴』の引用だ。失われた半身を探し出すことが愛だと。それは、思う相手と自分が完全な一体となることだが、実際、複雑な関係に複雑な気持ちを抱くのに、完全に誰かと身も心も一つになるとはどういうことか。
多様なセクシャリティを受け容れるとき、各人の愛を認めるということは、差異(違い)を受け容れることだろう。そういうあり方もあるよね、と。
「愛とは厄介でおぞましくて利己的…それに大胆(Love is messy and horrible and selfish ...and bold)」
愛とは「贈与」だ。「交換」とは違うから、それが相手のためになるか本当のところ分からない。その意味で「利己的」だけれど、見返りを求めるのでは「純粋な贈与」=真の愛ではない。だから愛には倫理が必要だ。けれど、守ってばかりでも関係は変化しない。そして関係が変化しなければできない贈与もある。そこには飛躍が必要になる。相手を傷つけかねない身体に根差した感情はおぞましいが、それでも大胆にならなければならない。
最高のエンタメでありながら、深いメッセージ性をもった良作。