グレタ・ガーウィグ監督『ストーリー・オブ・マイライフ』2019年

もう今年(2020年)ベストと決めていいくらいの作品ではないか。今まさに映画にする意味のある原作であり、グレタ・ガーウィグその人が撮ったのもすごく頷ける主題。
構図もカメラワークも素晴らしく決まっていて、最初のワンカットから息を呑む。セットの造りも衣装もその色合いから何から洗練されている。音楽も作品世界に溶け込んで、凝っている印象は受けないがオーソドックスに胸を打つ。フレドリックのピアノシーンがベタなソナタだけど沁みる。流れとシチュエーションによる意味づけがとても効果的で流石という感じ。
若草物語』をほぼそのまま基にし、語り手のジョーを原作者アトウッドに重ねて描く。これは飛躍のある設定ではなく、一般的な解釈を創作に取り込んだものであるよう。好きなシーンはたくさんあるけれど、最後の『若草物語Little Women』を活版で印刷するシーンは、とても美しく、本を手にとって読みたくなる。原作未読なのでぜひ読みたい。
女性の自立を主軸にした本作は、ジョーがすべてを体現してくれているが、「結婚が女の幸せ」というありがちな文句への徹底的な反抗をみせるのだが、それは最後まで観れば単純ではない。その決まり文句が前提にしている社会への怒りもある。ジョーが『若草物語』の出版を会社と交渉するときに言う、「フィクションのなかでも結婚は経済なのね」という台詞は凄まじく印象的だ。しかし、ジョーがはじめ絶対的に反対した結婚は、許容されるものになる。
夢と家族が失われるときには何も残らないから。夢も自分1人では存在しない。夢も誰かのためにあり、誰かなしには叶えられない。ジョーの本はベスに捧げられている。家族=愛がなければ何もない。「結婚」が経済のためなら否定すべきものだが、愛ゆえの結婚なら肯定される。
そうした意味で結婚は捉え直される。そこで一つの不満は、そうした意味で「結婚」は異性愛の制度化ではなく、まさに愛のメタファーなのだから、結婚という形以外の愛にも目配りをしてくれたらもっとよかったかもしれない。
ただ、ローレンのお祖父さんのストーリーは、本作がラブストーリーであるのを越えて、「家族」、つまり類似性・親近性で拡張された家族の物語にしている。
本当に優しい美しい映画だった。